第二部 双極性障害(BP)の治療                                 1)治療薬

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薬には、一般名、化合物名、商品名(製造会社ごとにある)があります。前2者は論文や教科書を読むとき要りますが、あまりなじみのない名前と思います。ここでは、代表的商品名1-2個(時に一般名も併記)で表記します。どの名称からでもネットで、一般名や他の商品名、後発品名を探せます。最近、後発品の商品名に、一般名(企業名)表記を厚生労働省は勧めています。

 

1-1)気分安定薬

 これの事を時に,抗躁薬と表現することがあるけど,ちょっと紛らわしいので気分安定薬とよぶべきで、ここでは抗躁薬と言う表現は使いません。

1-1-1)リーマス(炭酸リチウム)

炭酸リチウムが一般名で、かつ化合物名です。リーマスは大正製薬の商品名で、他にリチオマール、炭酸リチウム(アメル)などがあります。

1-1-2)抗痙攣薬

デパケン,テグレトールのみが保険適応です。リボトリール(ランドセン)は意外に思われるかもしれないけど、実はベンゾジアゼピン(BZ)系です。でもこれには抗けいれん薬としての認可しかなくて、睡眠薬や抗不安薬の適応はありません。しかしパニック発作に効くので抗不安薬作用もあるようです。認可されているガバベン,フェニトイン,日本未認可のラモトリジンなども,使用可でしょうけど、現実的には大学病院などだけでしょう。

1-1-1)リーマスのグループは,日本では炭酸リチウム(リーマス)だけしかないけど,海外では徐放錠や,リチウムの硫酸塩などもあります。徐放錠は濃度の安定,副作用軽減、服薬回数減少で望まれるけど国内にありません。このグループの薬は基本的に単一で,リチウムイオンだけでイイらしく、BPの気分安定薬として最初のもので,歴史・臨床経験が豊富です。機序は細胞内シグナル伝達系に関係するようですけど、完全には解明されていません。

1-1-2)抗痙攣薬はたくさん種類があるけど,デパケン,テグレトールがもっとも歴史があります。デパケンには徐放剤があるけど,テグレトールの徐放剤は海外にしかありません。

リボトリールは最強のBZと,BZ受容体への親和性より言われます。 BPに対する気分安定薬かどうかの証拠は前2者より弱く,保険適応でないけど、副作用は少ないので日本でしばしば併用薬として使われています。つまり単独で気分安定薬として使うのは弱いと思われているようです。

ラモトリジンのBPへの有効性はかなり良い証拠があるけど,日本で認可されていず,皮膚に対する副作用は深刻なことがあります。テグレトール>デパケンにも,重症の皮膚障害の副作用があります。

 1-1-3)気分安定薬の併用

気分安定薬は併用した方が,効果もあるし副作用が減ると言う,比較的革新的な総説がありました。
http://home.comcast.net/~pmbrig/BP_pharm.html
http://home.comcast.net/~pmbrig/BP_pharm.html#stabilizers

多くの場合,1つ以上の気分安定薬が気分エピソードの完全なコントロールに必要です。単一薬剤療法が基本ではあります。しかし,単一薬剤でとっかえひっかえトライアルするより,しばしば少量の他の薬剤を加える併用療法で有意の治療効果が得られることがあります。NIHのロバート・ポストはこの方法を推奨しています。そして時に少量の併用薬を用いる事で相乗効果を得て,単剤の場合の副作用を避けられることを観察しています。しかも幾人かの重症な患者は3-4つの気分安定薬の併用をそれぞれ最大治療量使わないといけない事もあります。

その場合,確立した古典的気分安定薬として,リチウム,デパケン,テグレトールがあり,研究段階の気分安定薬として非定型抗精神病薬の,ジプレキサ,セロクエル,エビリファイ,その他の抗けいれん薬,を加えられるでしょう。これらの中から併用療法を組み合わせます。例えば,リーマス+抗けいれん薬,リーマス+非定型抗精神病薬,リーマス+抗けいれん薬+非定型抗精神病薬,などです。

日本にある抗痙攣薬の,ガバペン,トピナ,フェニトインなども,BPに使えるという研究があるけど,国内ではあまり経験がないし保険適応外になります。前2者はてんかんの場合,他の抗けいれん薬との併用のみで認可されています。海外ではかなり沢山の抗痙攣薬が気分安定薬として使われ,全てではないがFDAで認可されているものも多いです。

一般に、抗けいれん薬同士の併用は、副作用や肝への負担を考え、あまり行なわれず、リーマスと抗けいれん薬の併用を行ないます。しかしリボトリールは、睡眠薬や抗不安薬と同じBZ系で副作用は少ないので、他の抗けいれん薬との併用が比較的行なわれます。また,ガバペン,トピナは上記のように他の抗けいれん薬との併用で使いますので,BPでもそうなるでしょう。

 

 1-2)抗精神病薬

これは本来は統合失調症の薬として開発されました。抗躁薬,メジャー・トランキライザー(強力精神安定剤),神経遮断薬と言われることもあるけど,抗精神病薬がもっとも誤解が少ない表現です。ただの精神安定剤と思って甘くみると酷い目にあいます。これには定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬にわかれます。

1-2-1)定型抗精神病薬はとてもたくさんあるので,高力価群 ,低力価群 ,中間・異型群と分けたり,作用時間で分けたり,化学構造から分けたりします。フェノチアジン誘導体(コントミン,ヒルナミンなど),ブチロフェノン誘導体(セレネースなど),ベンザミド誘導体(バルネチール,ドグマチールなど),などです。要は,自分に合うものを,使い込んで慣れておくことことです。

1-2-2)非定型抗精神病薬には,リスパダール,ジプレキサ,セロクエル,ルーラン,エビリファイ,があります。前4者はセロトニン・ドパミンアンタゴニスト(SDA)に分類され,エビリファイはドパミンスタビライザーとも言われます。ジプレキサとセロクエルはSDA以外の作用があってMARTAと分類される事もあります。

非定型抗精神病薬のうち,ジプレキサ,エビリファイには,躁病相と維持療法にFDAの認可があります。セロクエルは,躁病相とうつ病相に適応がありますが,維持療法に適応はありません。他の非定型抗精神病薬は躁病相のみです。
日本ではすべて統合失調症のみの適応です。
しかし,セロクエルにも維持療法の効果がありそうで,他の非定型抗精神病薬も維持療法に効果があるのではないかと考えられます。
逆に,非定型抗精神病薬が,うつ病相に有効であるかは,まだ確実とは言えないでしょう。

 

1-3)抗うつ薬

三環系(トフラニール,アナフラニール(経口と点滴両方可能),アモキサン)
四環系(ルジオミール,テシプール)
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(ルボックス/デプロメール,パキシル,ジェイゾロフト)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)(トレドミン)
その他: レスリン(デジレル),ドグマチール
<ドグマチールは薬理的にはドパミンブロッカーなので抗精神病薬と分類すべきだが,150-600mgぐらいでは抗うつ薬として臨床的作用がある。かなり太るし,パーキンソン症状がでて,抗うつ効果は弱い。>

 

1-4)抗不安薬,睡眠薬

抗不安薬はマイナー・トランキライザー(緩和精神安定剤),単に安定剤と呼ばれる事がありますが,誤解をうむ言い方でした。抗不安薬のかなりの部分はBZ受容体に作用する薬で,睡眠薬も同じグループです。よく安定剤だから安全で,睡眠薬(眠剤)は危険だなどと言う言い方がされたけど意味がありません。

非BZでも,BZ受容体の1種のω1受容体に結合するのが,アモバン,マイスリーです。

真の非BZは,バルビツール酸系,ブロムワレリル尿素(ブロバリン),抱水クロラールなどが,ありますけど古くて呼吸抑制があるので危険です。でもこれもBZとおなじくGABA作動性神経に働く事によって鎮静をはかる。

アルコールもGABA神経に作用するので,これらの薬とアルコールを摂取するのは危険です。

 

1-5)薬物治療モニタリング(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)

薬物治療の際に,血中濃度などを測りながら,適切な投与量,投与間隔を決めて,中毒を防いで効果を最大にする事です。医師側からは,薬をちゃんと飲んでいるのかを見る目的もあります。その為に予告せずに採血する先生もいます。

いろいろな薬でできるけど,もっとも重要なのが治療閾と中毒閾が近いリチウムで,それ以外はデパケン,テグレトールです。

測定時期は血中濃度の最低値(トロフ値)が良いので,次回内服直前ですけど,実用的には最終服薬後12時間以降とか,朝の服薬をせずに午前中採血などとします。リーマスの場合は,服薬して採血すると2.6時間後くらいでピークになるので,朝の内服を止めずに採血すると高めになります。デパケン・テグレトールでは定常状態になっているので,それほど影響を受けないけど,同様にトロフ値ですべきです。リチウムなどで中毒症状が出ているときは,ピーク時も採血します。

リーマスを開始したか,量を増減した場合は,5日以上経ってから採血します。デパケンでは約1週間後,テグレトールでは少なくとも5日後できれば10日以上経って採血します。

有効閾は,リチウムでは多くの研究があって,議論の種です。一応の有効血中濃度は0.3-1.2mEq/Lとバラツキがあり,中毒閾は1.5以上です。例えば,急性躁病で0.8-1.0前後にして,維持期・予防療法期はそれより低めにするなどです。一般に躁状態ではより高濃度が必要です。しかし,HopkinsとGelenbergは維持期・予防療法期も0.6-1.0を保つべきで,0.6未満になると予防効果が減弱すると指摘しました。海外に比べて日本の医師は低目を好みます。日本の医師は0.3前後の低濃度でも明らかな予防効果が出ているなら,あえて増量しなくて良いという考えが多いようです。数字より臨床反応性で決定すべきでしょうけど,あまりに低いのはどうかと思います。

デパケンの血中濃度についてはよりデータが不足していて,一般にはてんかん治療で使う50-100μg/mlが指標です。テグレトールの血中濃度も同様に,てんかん治療で使う4-12μg/mlが指標です。

しかし,最近デパケンについて,より高濃度の方が良いと言う研究があって,加藤先生のHPに紹介されていました。 http://square.umin.ac.jp/tadafumi/Publication_Bias.htm
「 ちなみに、バルプロ酸の血中濃度と治療効果の関連については、これまで45-125ug/mlとされていましたが、最近、新しい論文が出版されていて,プラセボに比べて有意差が見られたのは71.4-85.0 mg/ml以上の群で、それ以下の群ではプラセボと有意差がなかったとのことです。また、高濃度グループ(94.1-107.0mg/ml、>107.0 mg/ml)では低濃度グループ(< =55.0mg/ml)に比べ有効でした。抗躁効果を期待するには、94mg/ml以上の血中濃度がベストだと考えられました。」

この全論文は,HTMLとPDFで見られて
http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/content/full/163/2/272
http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/reprint/163/2/272

上の論文は,急性躁病に対するバルプロ酸の効果だけを見たものです。ですから,正常気分やうつ病相(維持期・予防療法期)で,同様に高濃度を要するか不明です。しかし,躁病相について以前考えられたより高濃度が要るなら,維持期でもそれより少なくても,以前考えられ以上の高濃度が要るかもしれません。ただ,デパケンの血中濃度は投与量に比例せず,頭打ちになる性質があるので,上記の濃度にしようとすると,保険最大量の1200mgを超える可能性があります。非常にコントロールの困難な双極性では,そのような投与量を主治医と相談してください。

とにかく,血中濃度は目安で,常に臨床的な判断と総合して考えないといけません。

これで,お薬の説明は終わりで,次に具体的な使用例について話します。
でも個々の患者さんによって薬の効きは様々なので,ここで話すのは一般例です。実際への適応は,主治医やセカンドオピニオン医師とよく相談してください。

では、「2)病相別の双極性障害の治療の実際」へ

コンテンツ別目次は、双極性障害の概念,診断,治療

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