2)病相別の双極性障害の治療の実際

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2-1)躁状態の薬物治療戦略

躁状態の治療は,本人,家族,医療側がよく状況を理解していれば,比較的直線的な戦略で対処できる筈です。しかし,色々な本人・家族の抵抗・無理解、医療側の経験不足や及び腰から、理想から程遠い治療が行なわれる事があり、それは本人・家族に深い傷を残します。つまり社会・心理的に緊急事態で,本人に職業・学業・家族関係上深刻な影響を及ぼすので,速やかな治療が必要で,必要なら入院をためらっていけません。

2-1-1)患者が抗うつ剤を投与されている場合には速やかに中止する。パキシルは禁断症状が出ると言われているけど、急に止めても平気な事も多いので、躁転の危険性を考えながら直ちにまたは数日で止めます。他の抗うつ薬で問題になりうるのはSSRIだけど、たぶん全ていきなり止めて平気と思います。もし、薬物離脱症状がでたら再投与してよりゆっくり減らします。

2-1-2)その上で気分安定薬を第一選択とする。未投与なら、リーマス、デパケン、テグレトールを400-600くらいから、開始し2-4日ぐらいで増やして行きます。すでに投与されていたら増量するか,不充分なら追加の気分安定薬を併用する。気分安定薬は速効性でなくて,10-14日ぐらいは,効果が出るのに要する。また一般にこのような時は高用量を要することが多い。リーマスなら800-1200,デパケン,テグレトールも800-1200mg,リボトリールなら3mg前後でしょう。気分安定薬だけで、躁を抑えるのは難しいけど、これがベースにあることで、抗精神病薬でうつ転するのなどを抑えるようです。

2-1-3)しかし,気分安定薬だけでコントロールできるのは珍しいので,抗精神病薬を併用することになります。抗精神病薬は非常に大量まで使える薬なので,躁状態がおさまるまで,どんどん増やして行きます。定型抗精神病薬なら,代表例としてコントミン(ウインタミン)が25-450mgまで使えます。その他セレネース0.75-6mg,が良く使われているけど,難治性の場合,パーキンソン病症状が強いけど,バルネチール,比較的新しいSDAのロドピンなどが使われます。

非定型抗精神病薬は,定型より躁病の興奮を抑える副作用が少ないけど,副作用は少ないです。

とにかく躁病相では素早く薬を投入して増量する事です。増やすのに迷っていると酷いことになるので,経験のある医師や入院,患者・家族の協調が必要でしょう。ただ患者は荒れ狂って病識がないことはよくあります。完全に病識を失う前に治療が始められ効くとよいのですけど。強制入院,保護室入室などで,患者に家族や医療側への不信感が決定的に根付いてしまう事はあるので,本人の意志を尊重する態度も必要です。しかし気分安定薬や抗精神病薬の効果は比較的確実で予測がつくので,知識と経験と早めの治療があれば怖くありません。

 

2-2)寛解期(再発予防・維持療法)

厳密に言うと,急性期治療後ゆっくり薬を減らしたり中止する時期を継続療法とし,完全に寛解・回復してからの再発予防を維持療法と分けて考える事もありますが,ここでの記載はまとめて行なっています。

2-1)の治療がうまくいって落ち着いたら,抗精神病薬は漸減・中止し,気分安定薬も少し減量して維持する事が多いです。

非定型抗精神病薬は気分安定薬作用があるという研究もあるので,継続することもあります。ただ,これに関する充分な証拠があるか問題です。つまり,非定型抗精神病薬(SGA) が気分安定薬作用を持つという多くの論文・総説にはデータ,論理上の穴があります。多くは急性躁病相で,非定型抗精神病薬(SGA)の治験を行い,それに反応したものについて,SGAの継続群と非継続群を比較したら,継続群の方が再発が少ないという急性躁病相治験の副産物データに基づきます。製薬会社が研究に深く関わったりしていますし,最初から,躁病相でSGAに反応のよかった患者群のみを対象とするバイアスがかかるのでした。そのように対象を絞るので人数や観察期間は小さく,脱落率も少なくないのでした。

寛解期の予防療法を行う基準は,双極I型障害では,専門家の意見は躁病エピソード1回と2回以上とに分かれています。前者の理由は躁病の生涯再発率が95%と高いことにより,後者の理由は初回エピソードから2回目までの期間が平均4年と長いことによります (Sachs, 2000)。一方,双極II型障害では3回以上の軽躁病エピソードといわれています。

いずれも目安に過ぎず,重症度,家族歴,社会・職業・家庭環境,本人の希望なども参考にしながら症例毎の判断が必要である。

予防療法は一度始めたら生涯にわたり継続するといってもよいため,開始前に患者とよく相談することが大切です。ただ継続療法の意味で行なうなら,1-2年続けてから漸減中止とする事もあります。漸減中止後,再発の頻度が増えるの半年は密に,その後も定期的経過観察が望まれます。 仮に再発がなく安定した状態が続いたとしても,維持療法を終了する時期についての見解はまとまっていません。これも症例毎に患者との話し合いで決定されるべきです。たとえば患者が強く妊娠,出産を希望する場合などは維持療法を終了することになるかもしれない。しかしそのような場合でも,急激なリチウムの中止は特に躁状態での再発の危険を高めるので,1ヶ月以上かけて漸減しなければならないでしょう。充分なデータはないが,おそらく他の気分安定薬でも同様な対応が望まれます。

双極I型では,生涯維持療法を続けるという考えも多いです。デンマーク精神医学会のガイドラインでは,5年以内に2回の気分エピソード(種類はどれでも)があったら,維持療法を勧め,5-10年は行なう。最初のエピソードが躁病エピソードで,重症だったり,卒業間際などの重大な人生の局面なら,最初のエピソードから維持療法を行なう。 5-10年後維持療法を中止する時も,再発の危険性が高くなるけど,もし再発したら維持療法は長期続けるかたぶん,生涯続ける方がよい。

 

2-3)うつ病相(双極性うつ病ともいいます)

これの治療は,今までの病相の治療と違い,治療反応性が予測できず,しばしば難治性で個々の対応が必要です。

2-3-1)抗精神病薬が投与されている場合はそれを中止します。パーキンソン病治療薬,抗ヒスタミン薬など,鬱を誘発,悪化させる薬もなるべく中止します。

2-3-2)抗うつ作用 のある気分安定薬の場合はこれを増量したり,調節することがあります。今の所,リーマスには軽い抗うつ病作用があるけど,他の気分安定薬の場合はなく,抗躁作用が主体なようです。ラモトリジン(未認可)もリーマスに匹敵する抗うつ作用があるらしいけど, 抗躁作用が弱いそうです。鬱の場合,気分安定薬を減量する医師もいるけど,私は賛成しません。鬱の前の躁を予防して軽くすると,その後の鬱が軽くなる印象を持つからです

2-3-3)次に問題になるのは,抗うつ薬の使用です。抗うつ薬は,躁転する危険性があり,従ってラピッドサイクルなど,病相の不安定化を招きます。それから,双極性障害は,前提として単極性うつ病に比べて経験的に抗うつ薬の反応性が悪い事を,認識しておく必要があります。

一応,躁転しにくいのはSSRIであり,あまり証拠はないけど,SNRI(SSRIよりは躁転しやすい)やレスリン(デジレル)やドグマチールや四環系抗うつ薬も躁転しにくいではないかと思われます。一方,躁転しやすい抗うつ薬は,三環系です。

ですから,抗うつ薬を併用するときは,気分安定薬の充分量を併用して,躁転を防ぎます。最初はSSRIなどの躁転しにくいものを少なめから使うけど,効果がなければ一日保険最大量まで増量します。それで,だめならSNRI,レスリン,四環系 抗うつ薬を最少量から保険最大量まで使います。

三環系抗うつ薬も必要なら使うけど,この場合は使用量が非常に大量まで使用可能です。例えばトフラニールなら10-300mgですし,アモキサンなら10-300mgです。でも,最大量まで使うのは危険なので,この場合なら200mg(最大量の2/3)程度までにします。

残念ながら,日本人はSSRIに反応しにくい人が多いようです。ですから,SSRI3種類(ルボックス(デプロメール),パキシル,ジェイゾロフト)がダメとなったら,早く見極めて他の抗うつ薬にトライすべきでしょう。

抗うつ薬の増強療法として,リーマス,甲状腺ホルモン,パーロデル(パーキンソン病治療薬でドパミン受容体刺激薬)併用が上げられています。前2者は躁転の危険性は増さないと思われるけど,ドパミン受容体刺激薬の場合は躁転の危険性が増すかもしれないです。甲状腺機能低下があれば,双極性障害の病相不安定化の原因にもなるので,甲状腺ホルモンを当然補充する。サブクリカルな甲状腺機能でも補充する意見が強いし,甲状腺機能低下が全くなくても補充してよいと言う意見があります。

最近の大規模研究では,気分安定薬を充分使っていれば,双極性うつ病に抗うつ薬を追加しても全く効果がないし,逆にそれによって躁転する危険性が増すものでもないとしました。しかし,私や多くの人の経験では,抗うつ薬の併用によって,鬱を脱出することも確かにあるし,躁転することもあったのでした。

一見、逆のようにも思えますが、抗うつ薬(特にSSRI)で,双極性うつ病が穏やかに治った場合,そのまま1年間は続けた方が鬱の再発が少ない事が報告されています。おそらく他の抗うつ薬でも,半年ー1年使い続けた方が良さそうです。ただし躁転した場合は,原則として直ちに中止します。パキシルのように断薬症状の強いものも,できるだけ早く数日で中止すべきと思います。

以上で,2)病相別の双極性障害の治療の実際 の終わりです。
双極性障害の治療で難しいのは,病相によって薬を使い分けなければいけない事です。
さいわい気分安定薬はほぼ全病相を通じて使えるけど,その普及以前は今よりずっとコントロールが困難でした。
気分安定薬は効き目が実感しにくくて,後から振り返ると,入院とか休職が減ったと分かるようなものです。充分説明を受けて根気よく飲んでください。
次は,「3)病型別の双極性障害の治療の実際」です。

コンテンツ別目次は、 双極性障害の概念,診断,治療

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