3)病型別の双極性障害の治療の実際

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3-1)ラピッドサイクラーRapid Cycler(RC)

3-1-1)はじめに,臨床的特徴

RCはDunner,Fieveが1974年に定義した病態ですけど,1年間に4回以上の気分エピソード,リーマスに抵抗性,女性に多い,甲状腺機能低下症,双極IIに多い,予後不良などの特徴が上げられました。しかしながらDunnerが述べた特徴がひとり歩きして,多くの総説や教科書がそれを無批判に引用しているようにも見えます。

DSM-IVの特定用語にRCが1994年に採用された時は,BPの5-10%がRCとされ,RCは女性が 70-90%が占めるといわれました。 2000年のDSM-IV-TRではRCの頻度は10-20%であり,以前は双極IIに多いと言われたけど,双極I≒双極IIだったという記載でした。さらに最近の統計ではRCの有病率は,14-53%とされているのもあります。

一方2003年のメタアナリシスでは,RCはRCでないものに比べて女性,双極IIが多く,うつ病エピソードでの初発,気分障害の家族歴,自殺企図歴が関係したと報告されました。このように,RCの特徴は報告により微妙に違います。

DSM-IVの基準では,躁病,混合性,軽躁病エピソードにおいて,抗うつ薬や電気ケイレン療法などの身体治療によって引き起こされた躁病・軽躁病は除外することになっています。ところがRCの成因として抗うつ薬投与は広く認められているので,もし基準を厳格に適応すると,RCの頻度が減ってしまいます。この除外項目について論争中ですが,RCについて扱う場合は除外しなくて良いように思います。私個人はこの場合は除外しなくていいと思いますし,特にRCを考えるときはこれを除外するのは変になります。

3-1-2)RCはいつまで続くか?

RCがいつまで続くかの一致した見解はないけど,Wehrらは5年間の経過観察中,RC が持続しと報告し,Coryellは前向き観察研究で2年以内に80%以上の症例がおさまったと報告しました。両方を信じるなら数年で軽快するものと,治療に抵抗して持続するものがある事になります。 2年で軽快するのなら予後は悪くない事になるけど,おおむね難治性という総説が多いようです。初期からRCであるものと,後になってRCになるものがあって,古いデータですが約20:80だそうです。初発年齢が,RCでないものより3-9年遅いというデータがあります。

3-1-3)甲状腺機能低下症は関係するか?

甲状腺機能低下は臨床症状のあるもの及びないもの(サブクリニカル)を含めて関係しそうです。両者とも積極的治療が望まれます。また治療でリチウムを使うと甲状腺機能が低下するので,甲状腺機能の充分な検索が必要です。 RCとRC以外の人に試験的にリチウムを6週間投与した所,潜在的甲状腺機能低下がRC 群で起きやすいことが示され,RC群の甲状腺に脆弱性があるかもしれないそうです。

3-1-4)抗うつ薬はRCを引き起こすか?

抗うつ薬による躁転がRCのきっかけになること,抗うつ薬の使用がRCを起こすだけでなく,助長する可能性が指摘されています。 RCと抗うつ薬の使用が46%で関連し,特に女性のRCでは抗うつ薬に関連するRCが男性のと比べて2倍近いといいます。一方気分安定薬を併用した状況での別の研究では,鬱の極期と躁転する前の三環系抗うつ薬使用に差がなく,抗うつ薬変更とRCも関係ないそうです。

また別の長期の追跡研究ではRC症例の42%は観察期間中抑うつ状態で,躁・軽躁は13% にすぎず,多くの症例で鬱のコントロールが治療上問題なので,注意深い短期の抗うつ薬使用が必要かもしれないと指摘しています。つまり抗うつ薬でRCになるか,助長されるかについても厳格な研究はなく,結論がでていません。

しかし臨床的経験ではそのような報告があるので,コントロール不良のRCについて抗うつ薬を漸減・中止するのは1つの戦略で,それによってコントロールが良くなったと言う報告もかなり見られます。

3-1-5)RCにリチウムは効くか?

Dunnerの最初の報告以来,RCにリチウムはあまり効かないとというのが定説になりました。しかし,RCに関するリチウムの成績は錯綜していて,2報の50%以上の症状改善を認めるという報告,再発予防効果は認めないが症状の改善は認める1つの報告,2報の再発予防効果は認めないという報告がありました。つまりDunnerらのリチウムに治療抵抗性という報告と違って,再発予防効果は難しくても,すくなくとも症状の部分的改善性が認められそうです。実はDunner自身もその後の報告で,再発予防効果はないけど症状改善があるので臨床的に有用としています。

3-1-6)RCにその他の気分安定薬はどうか?併用療法はどうか?

CalabreseらはRCに対してリチウムよりバルプロ酸(デパケン)が有効であると1990 年報告しました。 2005年Calabrese自身により行なわれたより大規模の追試では,リチウム群とバルプロ酸群に有意の差はなくなってしまいました。

テグレトールがリチウムより,RCに良いという経験的な報告はあるのですけど,双極性障害全体でもテグレトールは,好ましい傾向はあるけど,有意の維持療法である事は示されていません。 Dnicoffの1987年の報告で,RCの既往歴をもつ双極患者は,リチウムに28%,テグレトールに19%,併用療法に56.3%反応していたけど,併用療法で有害事象が多いようです。

2005年Calabreseに行なわれた研究でも,リチウムとバルプロ酸併用で症状がある程度コントロール出来たのは24%でした。

したがってリチウムより抗痙攣薬群の気分安定薬がRCに確実に良いと言うのは,懐疑的です。ただRCをきちんと対象にした大規模研究がないので,試行錯誤で有効な気分安定薬を探すしかないように思います。上述の研究より併用療法は期待はできるけど,データ上,臨床上の優越性の証拠は少ないことになります。日本では使える気分安定薬が少ないので,併用にかけるしかない部分もあります。日本で好まれるRCに効くと言うリボトリール(単独または併用に)に関するデータは恐ろしく少なかったです。

ただ,日本語の総説では,右にならえで,リーマスは効きにくい,デパケン・テグレトール・リボトリールは効くとしている傾向があります。それに従って医師の薬剤の選択が偏っているように思います。私の経験では,高用量のリーマスでRCが止まりました。日本ではリーマスの使用量,血中濃度を低めにする傾向があるので,リーマスが効かないという評価が広がっているのかもしれません。

3-1-6)RCに非定型抗精神病薬は有効か?

定型抗精神病薬は躁病急性期に,気分安定薬と併用されるけど,鬱転する危険性があります。RC治療上,躁状態から鬱転させない事が,鬱から躁転させない事と同様に重要です。従って鬱転させにくいと言われる非定型抗精神病薬に一定の役割があるかもしれない。

現在,日本で認可されている,非定型抗精神病薬は全て統合失調症にしか適応がないです。しかしFDAでは急性躁病に全て適応があり,双極性障害の維持療法としてジプレキサ,セロクエル,エビリファイが適応です。ルーランは国産品で,米国で販売されていないのでデータが少ないです。

ジプレキサでは1番治験が繰り返し行なわれたので,RCを対象に含むものもあります。ジプレキサに,バルプロ酸またはリチウムを併用するのは,躁病相,維持療法として有効なようです。

非定型抗精神病薬(SGA)が気分安定薬作用を持つという多くの論文・総説にはデータ,論理上の穴がありますことは,2-2)で記載しました。でもRCの場合は試す価値があるかもしれないです。

3-1-7)結語

RCの分類は多くの賛同を得たけど,その特徴はかなり変遷しています。頻度もかなり多くなってきて,ここまで多いとサブセットとしての立場が変わってきます。 RCの4回以上という操作的基準を再検討したKupkaらは8回以上に定義しても大して変わらない事を示しています。だから普通RCのエピソードはかなり多いのです。つまり4回で区切った正当性も問題となります。

 

3-2)双極II型障害(BPII)

3-2-1)はじめに

BPIIは新しい概念で,DSM-IV(1994年)で正式採用された診断カテゴリーです。
つまりその前のDSM-IIIR(1987年)では非定型双極性うつ病や特定不能の双極性障害として扱われていたし,ICD-10 にはありません。

でも概念は1970年代のDunnerらの研究にさかのぼり,彼らは躁うつ病(両病相があり躁病で入院歴)にも単極性うつ病(うつ病で入院歴)ににもうまく分類されない,うつ病+入院を要さない軽躁病の既往のある人を,双極IIと名づけ,上記の古典的躁うつ病を双極Iとしました。その後の家族,気質,病前性格,疫学研究でBPIIは,単極性うつ病より双極性障害に近縁である事が示され,DSM-IVで正式採用されました。

軽躁病エピソードと躁病エピソードの差はわずかだけど,基準Dには,他者から観察し認識される程度(の異常),とあるし,一方で社会的・職業的機能に著しい障害や,入院を要さないとされます。

BPIIの診断基準では、臨床的に著しい苦痛、社会的、職業的、その他の重要な領域での機能の障害、の存在という表現があります。つまり正常人の正常範囲でのハイという程度以上の気分の変動になります。

私も誤解していたけど、鬱状態での入院は、BPIIの除外項目でなく、躁での入院が除外項目です。

3-2-2) 臨床的特徴

BPIIの生涯有病率は約0.5%と言われます。性差は女性に多いという報告と同等と言う報告があります。 BPIIの親族には、BPII、BPI、うつ病性障害が高率と言われます。つまりこれらは共通の遺伝的機構があるかもしれません。一方でBPIIだけの遺伝的独立性もありそうでした。

軽躁病エピソードの60-70%は、大うつ病エピソードの直前または直後です。自然経過だと、躁病・軽躁病エピソードは2-3ヶ月、大うつ病エピソードは6ヶ月平均して続くそうです。反復性大うつ病性障害より、出現するエピソード数は多いです。 5-15%の患者でRCになり、治療困難です。

BPIIの5-15%が5年間で躁病エピソードを呈し、BPIになります。 BPIIにはアルコール依存症などの物質乱用または依存、摂食障害、不安障害、境界性パーソナリティ障害、自殺企図がBPIや大うつ病性障害より多いと言われています。季節型も多くて、夏に軽躁病エピソードを呈しやすいそうです。

3-2-3) 治療

気分安定薬 リチウム、デパケン、テグレトールが主体です。まず1種類を使用し、約3週で効果がなければ、増量あるいは変更です。気分安定薬が効くまで10-14日を要するので、その間不眠・焦燥・不穏があったらベンゾジアゼピン系か抗精神病薬を併用します。それでも効果がなければ気分安定薬の併用を行います。 BPIIの鬱病相の治療は、BPIのそれと同じですが、躁転・RC化しやすいので、よりデリケートに行います。

維持療法については、上述のように3回の軽躁病エピソード後に始めることが多いけど、本人の社会的地位・要望に合わせます。もし維持療法を行わない場合、急性期治療後、継続療法として急性期に用いた抗うつ薬や抗精神病薬を漸減・中止し,更にゆっくり気分安定薬を中止していきます。単極性鬱病の場合、継続療法として抗うつ薬を1年使い続ける事が一部で推奨され、双極性うつ病の場合も同様なデータがあります。その事は、BPIIの急性期治療後の1-2年くらいの継続療法が大事のようです。

定型抗精神病薬には再発予防効果はないけど、非定型にはあるかもしれません。

BPIの場合は、急性期治療から、そのまま継続治療、維持療法と連続することが多いけど、BPIIの場合は、生涯の再発予防療法(維持療法)の導入に議論があります。その場合、急性期療法後の継続療法で寛解を固めてから薬を離脱するのが重要です。

3-2-4)社会的・心理的側面

軽躁病エピソードは、本人・家族・周囲の者から全く困らず、問題視されないことがあります。ですから、その把握や本人らによく知らせる事が重要です。また、本人は困らないどころか絶好調の時期と捉えて治療を拒むこともあります。

しかし放置すると、軽躁とは言え,だんだんエピソードの出現頻度や逸脱の程度が酷くなってきて来て、心理・社会的、職業・家庭などで大惨事になる事もあります。つまり病気に関する知識、治療の選択肢、予後などの心理教育が必要になります。

 

3-3)混合性エピソード,混合状態,(混合エピソード,混合型,躁鬱混合)

上記のように言い方からしてイロイロあるけど,ここではDSM-IVの定義に従っている場合,混合性エピソードにして,クレペリン的な定義の場合は混合状態と記載します。

混合状態の概念は実は古くて,クレペリンより前から似た状態の記載があるけど,クレペリンの教科書第5版(1896)に系統的記載があります。彼は西洋の伝統的精神モデルに従い,心を,知(思考),情(気分),意(意欲)の3つの観点から観察し,3つとも高ぶっているのが躁,3つとも停滞するのが鬱として,3つのうちの1-2つが高ぶり他が停滞するのを混合状態としました。

しかしDSM-IVなどの国際分類では,混合性エピソードを上述のように,クレペリンの古典的定義より狭く定義しています。つまり,少なくとも1週間の間ほとんど毎日、躁病エピソードの基準と大うつ病エピソードの基準をともに満たす,必要があります。その結果,混合エピソードは,軽躁病エピソードやBPIIとの共存が許されないのでした。

しかし,現在でも,多くの患者・医師がクレペリン的な混合状態を認めているようです。

DSM-IVの混合性エピソードは,6.7%だそうであまり多くありません。しかし大うつ病症状に,2つ以上の躁状態の症状を伴う臨床的混合状態は37%だそうです。

混合状態の人は,アルコールなどの物質乱用,精神症状(幻覚・妄想など),強迫性障害が多いと言います。

ベンゾジアゼピン,バルビツール酸系,メチルフェニデート(リタリン)が,混合状態の改善に寄与する証拠はありません。精神症状を示唆する訴えがあると,とりあえずベンゾジアゼピン系の抗不安薬を処方する医師がいるけど,患者が「ベンゾジアゼピン常用量依存*」に陥る人がいて困るので,依存性のある上記のような薬物は避けるべきです。*常用量依存とは,薬の常用量の範囲での適切使用なのに依存に陥ることです。

 最後の話で、「4)精神療法と環境調整」

コンテンツ別目次は、 双極性障害の概念,診断,治療

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