4)精神療法と環境調整 

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 双極性障害(BP)の治療の基本に,A)精神療法(心理療法)と,B)環境調整(社会的治療)という方法があり,それは重要な治療手段で,まとめて心理社会的治療ともよばれますが,適切な薬物療法が前提になります。
 
 この稿は,それらを説明します。分かりやすさを優先するために,平易な表現を用いました。
 
 精神療法は,本来,精神科医や臨床心理士などが,行なうものですが,日本では保険診療の関係もあって,充分利用できなかったり,手技も古いものが多いです。
 一方,最近はその手法を患者のセルフヘルプ向けに解説している本が増えましたので,それらを利用するのも一手でしょう。日常用語で書かれているので簡単な気がしますが,実行は必ずしも容易ではありません。
 また,薬物療法に副作用があるように,精神療法や環境調整でも,副作用(精神的不安定や心理的な揺さぶりなど)があり,却って悪い結果となることがある事を理解して,充分気をつけて適用ください。
 
 
 A)精神療法には,1)心理教育(サイコエデュケーション,PE),2)認知療法(CT),3)行動療法(BT),4)認知行動療法(CBT),5)対人関係療法(IPT),6)社会リズム療法(SRT),7)対人関係・社会リズム療法(IPSRT),8)家族療法(FT),9)集団療法(GT),10)力動的精神療法(PDPT) などがあります。有効性の証明が一番なされているのは,認知療法,対人関係療法,行動療法です。
 
 
 1)心理教育(サイコエデュケーション)(PE)

 これは,ふつう精神科医が行い,患者(と家族)に,情報,を提供し,病識を高めて偏見を排除し,服薬をきちんとすること(服薬コンプライアンス)の重要性の認識,再発の防止などを説明するものです。病名の告知,治療法の説明,薬物の副作用などの説明もされます。
 初めての患者にとって,薬を飲み続けること,気分をモニターして再発の徴候をつかむことは大変で,重要性はよく分かりません。それをよく理解してもらおうというものです。
 :BPの薬物療法にPEだけでも行なうと,治療についての知識が向上し,服薬コンプライアンスが改善し,再発の時期が遅くなったという研究があります。
 ::これを充分行なってもらっていない患者は,双極性障害の啓蒙書を数冊読むと良いでしょう。代わりになります。
 
 
 2)認知療法(CT)

 認知とはCognition(コグニション,考え方,見方),です。
 気分は思考を左右するけど,思考も気分を左右します。思考をより客観的に変えられれば気分を変えられるでしょう。
 例えば,コップ半杯の水は,もう半分なくなったと考えるか(悲観的,実はうつ的),まだ半分あると考えるか(楽観的,実は躁的)によって,気分は大いに異なります。これはうつ的、躁的、と言った躁うつの気分変動にも応用できる見方です。客観的に,半分はあると認識(正常・客観的気分)すれば,うつ気分が改善されるでしょう。
 
  7種類の「認知のゆがみ」を是正します。認知の歪みは幾つかのパターンに分類され,7種類です。その7つとは,恣意的推論,ニ分割思考,選択的抽出,拡大視・縮小視,極端な一般化,自己関連づけ,情緒的な理由づけ,です。難しい名前がついていますが,本の解説をみれば誰もが思い当たることです。それで,自分の認知の歪みがどのパターンかを知るのが第一です。
 
同じく「自動思考」を見つめ直します。悲観的になった時に思う考えは,自分の意思に関わらず出てくるので,自動思考と呼びます。それの代わりになる考えを見つけるのが重要です。(自動思考の)根拠を探し(実はない),その結果を予測し,代わりの考えを探し出します。
  
さらに「コラム法」で現実を見ます。1)状況,2)不快な感情,3)自動思考,4)代わりの考え,5)心の変化を5つのコラムにして記載して,非合理な自動思考をなおし,不快な感情もとっていきます。
 
 認知療法の技法を全部解説するのは大変なので項目だけですが,本が沢山出版されています。いくつか本を読んでみるか,こちらのリンク先にある,認知療法関連・紹介のHPをみると,手技が紹介されているので分かりやすいでしょう。
 :認知療法については,クリニックでこれをしてくれるところは少ないので,自分で本を読んで実践してみてください。理屈っぽいので,根気が要ります。鬱と躁の酷いときは出来ないかもしれないけど,軽-重鬱のネガティブ思考が少し軽くなる気がします。
 
 
 3)行動療法(BT)
 
 行動療法では,自分の行動や感情に関わる「コントロール感覚」が重要です。
 周囲の状況や,人々に影響・コントロールが及ばないとうつ状態に陥ります。
 うつ病の動物モデルの2)学習された無気力(学習性無力,learned helplessness:LH),でも見られる状況です。
 ストレスとうつ病動物モデル参照。
 
  逆に言うと,周囲の状況や人々にコントロールされて身動きできない職場や家庭などの社会的状態を脱すればいいとも言えます。
 
 サラリーマンの中間管理職は,上司と部下に挟まれて,自分の思うようにならない状況で長時間働かせられます。
主婦の状況も中間管理職に似ています。一家の大黒柱とおだてられているけど,することは雑用が多く,子供は言うことを聞かず,夫も何かと注文を出すでしょう。その状態で,周囲から家事や育児は出来て当たり前とみられ,適切な評価や感謝も得られないと沈んだ気分になります。

サラリーマンでも主婦の場合でも,まず自分のしてきた事を振り返ります。つぎにあまり遠くを見ずに,目の前の具体的な問題から解決していくのです。
サラリーマンなら上司の突然の無理な要求には,理性的にアサーティブに反論するとか,主婦の場合なら,自分の役割分担を明らかにし,家族の他のメンバーへの分担分を求めるなどです。(これは対人関係療法的手技が要ります)
 
 大野裕先生の本では,行動療法の問題解決技法が紹介されていました。
 具体的な問題解決に向き合う p120
 
 1)問題を明確にする。 problem できるだけ具体的に。
 2) 解決のアイデアをたくさん考える。 resolution 思いついたことはまず書き出してみる。
 3)(それぞれのプランの)プラス面とマイナス面を検討する。 analysis 一番問題解決に役立ち,実行しやすそうなのを選ぶ。
 4)実行する。とにかくdoしてみる。 事前にシュミレーションやロールプレイできればなおいい。
 5)結果を評価する。assessement 上手くできたら自分をほめる。解決しなかったら,どこに問題があるかを調べる。このサイクルを繰り返す。
 やさしい感じの表現でした。
 
 私が無理やり英語を当てはめました。つなげて,PRADAと命名しました。
 行動療法では,行動を個々の段階に分けて1つ1つ進めることをします。そのことによって何も手につかない時に,何か行動を始められるかもしれません。
 何をやってもうまくいかないとあきらめるのではなく,やれる問題をみつけ,PRADAの方法でトライしてみればどうでしょうか。たとえ完全な成功で無くても納得がいったり、気分が楽になると思います、
 
 :これもクリニックでほとんどしていないと思いますが,本もあまり多くありません。
 
 認知療法と行動療法は手技が似ているので,両者を組み合わせた,4)認知行動療法(CBT)がよく行なわれます。
 BPの薬物療法にCBTを組み合わせて,BPの薬物コンプライアンスが上昇したり,治療からのドロップアウトが減ることが示されています。
 
 
 5)対人関係療法(IPT)
 
 「コミュニケーション」が対人関係療法の基本です。
 人間は社会的動物ですから,人と触れ合うことで,悩みを解消します。一方対人関係のトラブルは強いストレスになります。
 動物モデルでも,3)社会的負け犬(social defeat: SD)モデル,4)母子分離モデル,があり,似ていると思いました。
 ストレスとうつ病動物モデル参照。
 
 
 気分障害に関係の深い対人関係問題は,4つです。
 1)喪失体験,  大事な人との別離
 2)コミュニケーション・ギャップ(対人関係上の役割をめぐる不和),  夫婦・親子・同僚間など
 3)役割の変化,  進学,就職,転勤,転職,退職,結婚などに伴うもの
 4)対人関係スキル(技術)の不足(対人関係の欠如)  人と関わるのが苦手とか,きちんと主張すること(アサーティブネス)ができないなど

対人関係をらくにするヒント 
 1)自分を好きになる:私が「悪い」からスタートすると,どんどん辛くなるから,私が好きからスタート。
 2)自分とは違う相手を認める:相手の気持ちや考え方は自分と違うことをまず認めましょう。
 3)いつも具体的に考える:「じぶんはダメな人間だ」「あいつは酷いやつ」ではなく具体的問題点・相違点を指摘。
 4)百点満点はない:お互い違う他人ですから,人間関係にパーフェクトはありません。
 5)食い違ってもいい:意見の対立を恐れる必要はありません。
 6)言いにくいこともいう:黙っていては伝わりません。伝え方に工夫して。
 7)言葉だけじゃない:表情,相づちも重要。
 8)頭を柔らかくする:自分の思い込み,決めつけを反省してみる。
 9)いつものやり方をやめてみる:自己流のやり方,見方をもっています。
 10)困るを活用する:人間関係のトラブルは困るが,困るをひとつひとつ解決していけばいい。困ることこそ問題点です。
 
 対人関係がうつ病性障害・気分障害の発症と進行に関係するという理論の元に生み出されてたのが,5)対人関係療法(IPT)です。これに規則正しくない生活リズムの乱れが,躁・うつ症状の誘因になるという6)社会リズム療法を組み合わせたものが,7)対人関係・社会リズム療法(IPSRT),です。睡眠・覚醒表や対人関係のイベントを記入して,気分状態と対人関係・社会リズムとの関係を認識してもらいます。
 
 認知行動療法は,鬱の酷いときや,躁の酷いときに行なうののは難しいけど,IPSRTは比較的躁うつ病に相性が良いように感じました。
 
 大うつ病性障害には,CTを上回る成績をIPTは収めています。
 
 :対人関係療法をしているところは殆どありません。
 解説本も僅かでした。
 社会リズム療法では,BPの精神療法を記載した本やHPに,睡眠・覚醒表の載っているものがあります。
 
 
 8)家族療法(FT)

 家庭内のストレスが発症,経過,予後に関係する事が,示されています。
 BPの家族の感情表出(EE:expressed emotion)研究からは,高EE群では,批判,敵意,感情的巻き込まれが高くて,再発率が高く,予後も不良であると知られています。
 このようなことから,家族へのアプローチによって,家庭内のストレスを減らし,再発の誘因の同定,対処をおこない,経過の改善を図るものです。統合失調症家族でも同様な研究がなされました。
 
 :これは精神科医・臨床心理士が行ないますが,患者自身では普通出来ません。家族は権威に弱いから精神科医にしてもらうのが一番です。
 
 
 9)集団療法(GT)

 以前は躁うつ病はGTの対象と考えられなかったのですが,最近では,心理教育,セルフケアグループ(自助グループ),認知行動療法を組み合わせたGTによって,薬物コンプライアンス,知識,適応力の向上がみられました。
 
 セルフケアグループ(自助グループ,セルフヘルプグループ)は患者同士が集まって体験談や悩みを話し合うものです。オブザーバーとして臨床心理士などの指導者がつくこともあるし,居ないこともあります。BPのような稀な病気の場合,患者は孤立しがちですけど,同病者と知り合い話すことで孤独から救われ,病気のコントロールの上手なベテランの知恵も学べます。
 また,医師の説明より,実例の方が良く分かることもあります。 
 これには,わかちあい・ひとりだち・ときはなち の3段階があるといいます。「わかちあい」では体験・気持ち・考え方を共有し,次に自己選択や社会選択することで「ひとりだち」していき,それから自分への尊厳が生まれ「ときはなち」に繋がると述べています。
 
 :クリニックによっては,このような活動をしていますが,他の精神疾患と一緒に行なうことになるのが普通です。自助グループを専門家の助けになしに行なうのは時に危険だけど,同病者を知る点で有意義なことも多いです。
 
 
 10)力動的精神療法(PDPT)(精神分析的精神療法)
 精神分析的手法を発展させ改良されたものです。一部に有効と言う報告がありますが,効果は不明という報告もあります。
 長期に渡る場合があり根気がいると言えるでしょう。
 
 :ふつう,精神科医がします。セルフヘルプでするのは難しいと思います。精神分析の読み物は比較的たくさんあります。
 
 

B)環境調整(社会的治療)
 薬物療法,精神療法と並んで,気分障害の治療では,その人の置かれている環境面への働きかけが有効になることがあります。
 環境は,その人にとって相性があるので,慎重に分析する必要があります。
 具体的には,仕事の環境を変えられないか?家庭の環境をかえられないか?などです。
 
 職場の場合,職場の異動を伴う場合などは実施に注意が要ります。
 日本の職場の環境や,カミングアウトの問題などからみて,これは一筋縄ではいきません。
 しかし,職場の環境調整は,しばしばスムーズな職場復帰や回復にとって必須なものです。
 主治医,上司,産業医などと相談しながら,休職・復職などを慎重に進めましょう。
 :仕事の形態によってケースバイケースです。リハビリ出勤制度のあるところもあります。
 
 一方,主婦,若年者の患者の場合などは,家庭内の環境調整は重要です。具体的には家事の負担軽減,役割分担です。子供の場合,干渉しすぎないこと(低EE),放置もしないことや,休学・留年などの処置です。
 ;家族の理解を得るために受診に同席して主治医に説明してもらうなど、医療面からのサポートを選択することも可能です。また双極性障害の啓蒙書から病気の知識を学んでもらうなどの工夫もできるでしょう。

究極的な環境調整を最後に紹介しておきます。
(1)入院,2)休職,自宅安静,3)実家に帰る,4)部分出勤,リハビリ出勤,があります。
一般化して、話すのは難しいけど,

1)は医師の管理下に入り,家庭とも隔絶されるし,状況によっては面会謝絶にもなり,患者本人が主治医に頼んで面会謝絶にしてもらうことも可能です。

治療に専念できるし,入院中に思い切った薬物療法,精神療法,集団療法なども受けられるでしょう。最近は早期から面会可にしていると思います。
欠点は,長期入院になると,入院生活に依存したり,社会性が失われて,退院してもすぐ入院することになる場合があります。回転ドア症候群といいます。
早期退院と言われているけど,日本の入院はやや長い傾向があって,その後のデイケアサービスも遅れているかもしれません。
 
2)休職,自宅安静
仕事を思い切って休むのもひとつの手です。主婦の場合も,自宅安静にしてもらい,原則家事も誰かに任せる手があります。
自宅安静を,どのレベルにするかは主治医と相談して下さい。家にまで仕事を持ち込むのは論外だけど,仕事関係の本やPCを許可するか,娯楽の本だけにするか,などいろいろな段階があります。
主婦の家事も,全部しない,好きな家事だけする(洗濯するけど,掃除はしない,お菓子は作るけど料理は作らないなど),などいろいろの段階があります。
でも,せっかく休むのですから,家での作業はできるだけせずに思い切って休むことだと思います。
でも,あまり休職すると,職場復帰しにくくなります。

3)実家に帰る
両親が元気なら,仕事・家庭・家事から基本的に離れられます。自分の家庭での自宅安静は,主婦の場合何かと雑用が発生して完全にはうまくいかないけど,実家ならより良好です。
でも自分の家族が高EEで,相性が悪いと上手く行きません。(家族療法の項参照)。
遠隔地の場合,主治医をどうするかとか,子供の世話をどうするかの問題が生じます。
実家に依存してしまうと,元の生活に戻りにくくなります。

4)部分出勤,リハビリ出勤
おもに回復期の出勤形態としていろいろなものが考えられています。
残業を禁止する,午前あるいは午後だけ出勤,フレックスなどです。
企業によっては,リハビリ出勤制度として設けてあるところもあります。
出勤形態だけでなく,どの位置にもどれるかも重要です。一般的にはより軽いポジションに戻されてしまいますが,気を落とさずに対応しましょう。
これらは,回復期だけでなく,病状が悪化してきた時に(例えば躁になりかけた時)使って,先手を打って部分出勤などにできれば,再燃が防げるかもしれません。

 文献
 「双極性障害の治療スタンダード」 樋口輝彦、神庭重信編(星和書店) http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn433.html
 「うつ病・双極性障害で悩まないで!」大野裕 http://www.natsume.co.jp/category/d9784816343919.html
 「バイポーラー(双極性障害)ワークブック」モニカ・ラミレツ・バスコ http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn580.html

 

これで,おしまいです。お疲れさまでした。
もし,ご希望なら最初の目次から,望みの所を読み直せます。

もし,あまりこの分野に詳しくないなら最初から,一部分からなくても、ざっと読むことを勧めます。全部読み通せば分かる事や、掲示板とか他の本などの知識も加えて,だんだん分かると思います。

一応専門家のチェックは受けたけど、文責はazamiifにありますが、全ての文章が完全に正しく、誤解のないように書かれているかは保証できません。実際の適応に当たっては、主治医やセカンドオピニオン医師に相談してください。また、医学知識が古くなる事はしばしばあるし、一定以上の基礎知識がないと理解しにくい時もあります。

最初のコンテンツ別目次は 双極性障害の概念,診断,治療

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